残像時代 中村靖日_blog

weblog by yasuhi nakamura

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
  1. --/--/--(--) --:--:--|
  2. スポンサー広告

【撮影中】映画『それでもボクはやってない』/裁判傍聴初体験


『Shall we ダンス?』以来10年ぶりとなる周防正行監督の新作映画『それでもボクはやってない(仮題)』(脚本・監督:周防正行、出演:加瀬亮、瀬戸朝香、役所広司 ほか)に、ちょこっと出演。


痴漢容疑で逮捕された主人公の闘いを通して日本の裁判制度の現状を描く、社会派な作品。ぼくは先週インして。撮影のあいまに出演者で雑談してたら、役づくりのため本物の裁判を傍聴したという人が多かった。実はぼくも初めて傍聴に行ってみたのだ。

*

【裁判傍聴初体験 "マイケル" のてん末】

傍聴のため霞ヶ関へ向かった日、気分はどうにも重かった。裁判で、たとえば殺人などの理不尽な生死にまつわる権利と権利が衝突する様子を目の当たりにするなんて、あまり気の進むことではない。ともすると、いかつい顔の被告人がくるっと振り向いて「なァに見とんじゃ!」って飛び掛かってきたらどうすれば…いや、それはちょっと考えすぎやろ(笑)。それにしても誰だって当事者として法廷に立つ可能性は、ある。もしも自分がそんな事態になったら?なんてことを想像してまたどんより。しかし、ともかく今は法廷に行かなければ何も始まらん。営団地下鉄霞ヶ関駅から地上へ出るとすぐ、テレビで観たことある東京地裁の門が。ボディチェックを受けていざ構内へ。

1階ロビーのカウンターにある "公判開廷予定表" に目を通す。事前の下調べでおおよその狙いは決めてあった。

1. 地裁が扱う刑事事件、つまり"地裁刑事"。
2. 新件/審理/判決と3種類の公判のうちで、裁判の流れを最初から追って知るために初公判を指す "新件"。
3. その日ぼくはあまり時間が無かったので、開廷と終了予定時間の都合がよいこと。

この3項を満たす案件を探す。"公判開廷予定表" には他にも裁判の争点や被告人の名前も実名で記載されているのだが、ある案件にふと目を惹きつけられた。

『出入国管理及び難民認定法違反。
 被告人:ジョベ・Wことアチョ・Xことジョン・Yこと自称マイケル・Z
(W、X、Y、Zは実際には実名記載)』

こと、こと、こと、と続いて結局は "自称" かよっ!と少し笑ってしまった。いや笑い事にしたら怒られそうだけど。あれっ…さっきまでの重苦しい気分が吹き飛んでる。マイケル・Zのおかげか(笑)。それからざっとすべての案件をチェックし終え、重大な事実にぼくは気づいた。上記の3項、特に時間の都合、すべてを満たすのは "マイケル・Z" の裁判だけだったのだ。ほんとうは映画の題材に沿って痴漢についての案件が理想ではあるけれど、これも何かの縁だろう、ぼくはマイケル・Zの裁判を傍聴することに決めた。しかしジョベにアチョって、マイケルはどこの国の人なのだろう。アフリカ系のように聞こえるけど。

開廷まで少し時間があったので地下1階の売店をのぞいてみる。普通に日用品やお菓子なども売られているのだが、なぜこんな物が?といぶかる品々もあった。まず気になったのはカメラ。それも大判フィルム用のカメラや一眼レフが専門店のように並んでいるではないか。世間が注目する大きな裁判を取材しに集まった報道記者が、もみくちゃになってうっかりカメラを壊してしまい「やべぇ!」とこの売店へ駆け込むのだろうか。他には、なぜかパールのネックレスが各種豊富な取り揃え。正装して傍聴に訪れたけれどうっかりネックレスを忘れちゃったわ!みたいな展開だろうか。その場面であえてパールは重要なのか。そして最も異彩を放っていたのが、目覚まし時計。それもやったら種類が多い。なぜ裁判所で目覚まし時計を販売してんだ?そこに一体どんなストーリーが生まれているのか…謎である(笑)

予定の時間が近づいたので運命の413法廷へ。しかしドアの前には "開廷中" の文字が。本法廷でマイケル・Zの直前に審理している案件は何だろう…と掲示板を見れば『覚醒剤取締法違反』。これはいかにも危険な匂い。被告人がくるっと振り向いて「なァに見とんじゃ!」系だ。いかん、終わるまで待とう…とモジモジしていたら、若い廷吏がやって来て傍聴席入口のドアを開けて中をのぞき込み、軽い口調で「あ、まだやってんだ」とつぶやいてさっさと入室してしまった。あれっ、えらく気安い感じ。よし、ここは向学のため突入じゃ!と思い切ってぼくもドアを開けた。

テレビでよくみる木製の柵。その向こう側、中央に裁判長が座っている。優しいのか怖いのかよく分からない顔立ち。『羊たちの沈黙』のスコット・グレンに似てる。左側は検察官、右側には弁護士…のはずなのだがどうも様子がおかしい。いや、左右にはそれらしき人物の姿はある。だがそのまわりには、開襟シャツを着て陽に焼けた坊主刈り、どう見ても中学生にしか見えない少年が10人ばかりたむろっているではないか!『覚醒剤取締法違反』のバトルロイヤルか!?一瞬、緊張のし過ぎで幻覚でも見たかと目を疑ってしまった。どうやら、彼らは修学旅行で裁判所を見学に訪れた田舎の中学生らしい。ぼくは初めて法廷へ入ったというのに、なんとも出来すぎなタイミングである(笑)。「こらっ、静かに!」と引率の先生に叱られながら少年たちはガヤガヤと退室していった。

仕切り直しで、検察官と弁護士が入廷。弁護人は30歳前後だろうか、とても初々しい。裁判官はそのままスコット・グレン氏。傍聴席に座っているのはぼく一人。厳粛な空気が漂う。検察側奥のドアが開いた。警察官に連れられて、マイケル・Zが入廷。黒い肌…やはりアフリカ系だったんだなマイケル。いや自称マイケル。ちらっと目が合った。明らかに怯えている様子。どこか牧歌的な優しい顔立ち。いや勿論、顔だけでは何の判断も出来ない。彼は何らかの罪を犯し、それを裁かれるため法廷に立っているのだ。

人定質問、起訴状朗読、黙秘権告知…と裁判は進行。心なしか、裁判長の口調は優しい。マイケルはまったく日本語を理解出来ないため、やはりアフリカ系と思しき通訳のおじさんがすべて翻訳して、マイケルの素性や逮捕勾留に至る経緯が語られていく。マイケルは1979年生まれのガーナ人。両親と姉がいる。友人のパスポートを使って2003年5月ごろ不法入国、滞在。中野区のアパートで友人たちと同居。アルバイトで月に10万円ほど稼ぐ。2006年4月、警察官に職務質問を受け、逮捕。名前を訊かれ、怖くなって友人の名前を名乗ってしまった。その後も怖くて次々に友人の名を使う。これが "こと、こと" の連続した理由。偽名であっても調書に署名された名前は、公判まですべて記載されるということだろうか。ガーナ本国と日本における前科、前歴は無し。

弁護側の質問で、稼いだお金を一度、故国の実家へ送金していた事実が語られる。母親が病気になったので治療費を送ったのだそうだ。さりげなく情状酌量を訴える、弁護人と被告人の問答。他にも前科前歴の無いこと、日本でも働いて稼いでいたこと、不法滞在ではあるが定住所があったこと。もしガーナに帰れるなら?との問いには「学校ニ通イタイ」とマイケル。

対して、検察側からは厳しい質問が続いた。弁護側と被告人が述べてきた事柄を、たくみに裏返して被告人にとって不利な回答を引き出そうとする。「学校に行くつもりなら初めから日本に来る必要など無かったのでは?」マイケル、答えられない。長い沈黙。「頑張れ…何でもいいから反論しろよ」ぼくはちょっとだけマイケルを応援した。彼は犯罪者に違いないのだが、裁判では自らの主張を述べる権利があるのだ。「日本ニ来ル必要…アリマセンデシタ」あっさり認めちゃったよマイケル!(笑)あっちゃー。「もう2度と日本へ来ないと誓いますか?」検察の質問は厳しさを増して矢継ぎ早に繰り出されたが、もはやマイケルは一言も答えられなかった。

検察側の論告・求刑。不法入国そして2年11ヶ月に渡る不法滞在は重大な犯罪であり情状の余地は無い、よって被告に懲役1年6ヶ月を求刑する。弁護人の弁論。在留中そしてガーナにおいて前科前歴は無く、被告人を執行猶予とし一刻も早く本国へ送還するのが妥当である、と。ここまで傍聴したら当然、マイケルの行く末が気がかりで仕方ない。でも今日は初公判。これから審理、判決とまた何度か地裁へ通わなければ彼の今後を知る方法は無い。近年、傍聴マニアが急増してるらしいけど、人はこうして傍聴に魅きつけられていくのかと納得。

「では、判決を言い渡します」と裁判長。へっ、なんで判決!?

たしかに、この手の犯罪は被告人を送還するならば早い方がいいだろうし、裁判も刑罰もなかば形式的というか、迅速に進めようということなのだろうか。とにかく、なるべく軽い量刑でありますように…となぜかぼくは願っていた。

「主文、被告人を懲役1年6ヶ月」がーん、検察の要求通りだ。

「…執行猶予2年に処し、本国へ送還するものとする」あ、やった、猶予ついたぞマイケル!通訳のおじさんから判決内容を聞いたマイケル、それまでずっとがっくり落ちていた肩に少し力がみなぎった。表情もやわらいでいる。判決文の読み上げが終わると、マイケルは再び警察官に連れられて奥のドアへと消えていった。

もし彼が執行猶予中に再度、日本へ入国すれば刑は執行されるのだろう。検察官からは日本へ2度と来ないよう厳しく確認された。ぼくはもうマイケルに、いや自称マイケルに会うことは二度と無いだろう。そう思うとなぜか少しだけ寂しくもある。初めての傍聴、初めて間近に見た被告人。どうか達者でな、自称マイケル。

*
【付記_20061204】
この後、痴漢犯罪の裁判も傍聴した。


  1. 2006/06/16(金) 05:10:46|
  2. 仕事
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:9
<<【CM出演】P&G ファブリーズ | ホーム | 【LIVE】おおはた雄一 Caravan>>

コメント

拝見しました。

こんにちは、先日、「それでもボクは~」の司法修習生役、拝見させて
頂きました。実際こんな修習生いそう!と勝手に思い、観ながらにやにや
してしまいました。後、森下さんがツボです!

公開待機作&ドラマ楽しみにしております。
まだ寒い日が続いておりますが、風邪など引かぬよう暖かくお過ごしくださいね☆
  1. 2007/01/26(金) 20:38:26 |
  2. URL |
  3. haruhi #-
  4. [ 編集]

途中で送っちゃった

質問されたことをマイクが拾ってくれるはずなんですが、
なぜか僕の声だけちゃんと拾ってくれないらしくて

「もっと大きな声で」
「もうすこし大きな声で」

と何度も裁判官さんに怒られてしまい、
証言しに行ったのか怒られに行ったのかよくわからない状態に
陥ってしまいました。
最後には自棄になってハンドマイク状態でやりとりしてたりして。

直接の原告・被告も大変なんでしょうけど、証言も大変でした~。
  1. 2006/12/08(金) 21:06:01 |
  2. URL |
  3. クリンチ #-
  4. [ 編集]

マイケル~(自称)

去年の夏のことですが、通勤電車で痴漢逮捕をお手伝いした関係で
生まれて初めて霞ヶ関の証言台に立っちゃいました。緊張した!

質問された
  1. 2006/12/08(金) 21:02:18 |
  2. URL |
  3. クリンチ #-
  4. [ 編集]

これ、必ず見ます!

「それでも僕はやってない」、見ようと思っていました。
それに出ているとは・・・!!(・∀・)
必ず見に行きます。

色々と世知辛い世の中ですが、味方はそばにいるものです。
ガッツリ気合入れて頑張りましょう^^
  1. 2006/12/05(火) 02:59:54 |
  2. URL |
  3. あっこ #SFo5/nok
  4. [ 編集]

Re:

>あっこ さま
どうぞよろしくお願いしますー。映画って、ほんとうにたくさんの人が携わって作られているんですよ。自分の存在を認めてもらえるよう今後とも精進です

>miyako さま
わはは、不思議でしょ。四角くて平べったい、文字の大きな昔ながらの置き時計でしたよ。一眼レフもすっかり埃かぶってる感じで。古い観光ホテルなんかにもたいがい1階 or 地下1階にヘンな売店ってありがち。あれってなんででしょうね?(笑)

>かなやん さま
はじめまして、今後ともどうぞお気軽によろしくです。そう、もうじき陪審員制度始まりますね。被告人の見た目の印象だけで判断は出来ない。でも上の件については裁判長も、"マイケル" の無知や貧困が招いた犯罪だと判断したのか「まあキミは、しょうがないかぁ」という口調で、優しい印象でした。「友人のパスポートで顔写真が全然違うのに、入国管理官は通してくれた」と "マイケル" は爆弾証言をして、裁判長も思わず苦笑してました(笑)

>亜冴。 さま
カップルも何組か見かけましたよー、法律の勉強してる人たち?って印象で。裁判の当事者・関係者もいるかも知れません。でも、ぼくはさすがにデートには使いたくないかな…(笑)今回の件ではたまたま少し笑えるような局面もありましたが、殺人や性犯罪等の裁判はかなりヘヴィなようです。ともあれ傍聴は、いい人生勉強かも知れませんねー
  1. 2006/06/19(月) 03:37:00 |
  2. URL |
  3. ysh #zRol3RE6
  4. [ 編集]

デートコース。

ワタクシ自身はまだ未体験なんですが、
ウチの父が裁判の傍聴をしたことが幾度かあるらしく、地元の裁判所の前を通るたびに
「裁判所はデートに使うにはもってこいやで~
お金かからんし、人おらへんし、涼しいし」
と誇らしげに話していました。
そんなこっちゃないだろう!わが父;
でも、実際目にしてみると感じるものはあるのでしょうね。
靖日さんの目を通して見たような感覚になっています。だって絶対そこに立たないとは限らないワワケですもんね。いつそうなっても不思議じゃないんですから。ワタシも人生経験のヒトツとして学びにいってみようかな。
  1. 2006/06/17(土) 15:44:47 |
  2. URL |
  3. 亜冴。 #4RSyl9Sg
  4. [ 編集]

はじめまして

はじめまして。
いつも読ませてもらってたんですが、
今日は初めてコメント残しちゃいます;

裁判の話、とても興味深かったです。
陪審員制度とかの事考えたら、「頑張れマイケル!」
って応援できなくなっちゃいますね…。
けど絶対応援しちゃう。
  1. 2006/06/17(土) 00:25:12 |
  2. URL |
  3. かなやん #ZdWXkwRQ
  4. [ 編集]

売店・・・

不思議だなぁ。
目覚まし時計? 眼レフ? パール? …
つか、時計って 裁判所オリジナル、という訳でもないんでしょう?
そこに立ったら完全に時間が止まりそう。
そういうとこってなんでかたいがい地下1階、なのね。

とても興味深いレポートでした。ありがとう!
(あ、売店話だけでなくて、ね。)
  1. 2006/06/16(金) 11:12:04 |
  2. URL |
  3. miya #xBRchpDk
  4. [ 編集]

TRICKはこれから観ます。

加瀬亮さんとまた共演ですね。
映画作成~完成に携わることができるって素晴らしい。
トリックもこの映画も、楽しみにしています^^
  1. 2006/06/16(金) 10:30:27 |
  2. URL |
  3. あっこ #SFo5/nok
  4. [ 編集]

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://yasuhi.blog11.fc2.com/tb.php/92-cf0b2530
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。